最近カギの調子が悪い。錠にカギを差し込んでも廻らなかったり、廻せたとしてもその後抜けなくなったりして困ることがある。だけどカギを替える手間もおっくうだし、お金もそれなりにかかりそうだし、と言い訳をしてカギの交換を先延ばしにしてきたのだった。
そしてある晩、私は飲みに出かけた。昔の職場でお世話になった人が退職することになり、そこに私も呼ばれたのだ。その職場の飲み会は必ずと言っていいほど午前様になる。結婚して子供が産まれてから初めての飲み会、しかも出産を経て想像以上に酒に弱くなっていた私は、あっという間に泥酔状態になってしまった。だけどどんなに泥酔状態になっても記憶だけは失くしたことがないし、ちゃんと家に一人で帰ることができるのが私の自慢だ。
その日もタクシーに乗り込み、ちゃんと意識を失わずに家に帰ることができた。ところが玄関でカギを差し込もうとしたのだが、全くカギが錠に入らない。酔っ払っているせいではなく、何度試してもカギを差し込むことができないのだ。畜生め、ずっとカギの調子が悪かったとはいえ、こんな時に完全にイカレてしまうなんてついてない。しかも時刻は午前2時、家族は寝入っているはずだ。ただでさえ子供の面倒を見る羽目になって不機嫌だったというのに、こんな時間に起こしたらきっと夫は怒るだろうなあ…私は何とかカギを差し込もうと再びカチャカチャと頑張ってみることにした。
それが10分ほど続いた頃だろうか。ドアの向こうに人の気配を感じた。ラッキー、夫が気づいてくれたのだ。私はちょっと嬉しくなって、「カギが開かないの~開けて~」と甘えた声を出してみた。するとがちゃりとドアが開き、憮然とした表情の夫が出てきた。――憮然とした表情の、隣の夫が。その瞬間、私の酔いは一気に冷めた。いっそのこと飲み過ぎて記憶がなくなってしまっていたらよかったのに、と私は唯一の自慢を恨めしく思ったのだった。